愛恩研究所 AeOn Institute
「つらい出来事からはもう時間が経っているのに、気持ちが落ち着かない」
「人間関係でどうしても同じような苦しさを繰り返してしまう」
「自分を肯定的に認められない」
このようなお悩みを抱えている場合、それは「複雑性PTSD」と呼ばれる状態かもしれません。
近年、心理療法や精神医学の分野で注目されている「複雑性PTSD」について、その特徴や一般的なPTSD(単回性PTSD)との違いをわかりやすく解説します。
1. 複雑性PTSDとは?
複雑性PTSD(Complex PTSD / C-PTSD)とは、長期間にわたり逃げ場のない状況で反復的に受けたトラウマ(心理的傷つき)によって生じる、心身の反応や生きづらさのことです。
代表的な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
児童期における虐待(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)
機能不全家族での生活(過干渉、情緒的な無視、面前DVなど)
ドメスティック・バイオレンス(DV)やハラスメント
いじめ、監禁、人間売買など、継続的な支配・搾取関係
こうした環境で過ごすことで、「自分を守るための正常な防衛反応」がパターン化し、大人になって安全な環境に移ってからも苦しみが続いてしまうのです。
2. 複雑性PTSDと「発達性トラウマ障害(DTD)」の違い
トラウマに関連する概念として、複雑性PTSDとよく似た言葉に「発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder:DTD)」があります。
どちらも「慢性的・反復的なトラウマ体験」が背景にある点は共通していますが、影響を受ける時期やあらわれ方に以下のような違いがあります。
項目 | 複雑性PTSD(C-PTSD) | 発達性トラウマ障害(DTD) |
対象となる時期 | 全年齢(大人になってからのDVや抑留なども含む) | 乳幼児期〜児童期・思春期(心身の発達途上の時期) |
心身への影響 | 形成された人格・心理面に対するダメージ | 発達(脳・神経・認知・感情制御)そのものへの影響がより大きい |
診断上の位置づけ | WHOの『ICD-11』で正式な診断名として採用 | 提唱段階の概念(正式な診断基準には未採択) |
見られやすい特徴 | フラッシュバック、強い自責感・自己否定、対人忌避など | 発達障害(ADHD等)に似た行動(激しい感情起伏、注意散漫、衝動性) |
発達性トラウマ障害(DTD)は、主に「脳や心が著しく発達する子ども時代に、安心できる養育環境が得られなかったこと」に焦点をあてた概念です。
神経系が育つ時期に慢性的な緊張や恐怖に晒されることで、感情のコントロールや集中力、他者との関係構築といった能力の発達そのものに偏りが生じます。
そのため、一見すると発達障害(ADHDやASD)の行動特性と非常に見分けがつきにくいという特徴があります。
一方、複雑性PTSDは大人になってからの長期的なハラスメントや支配・拘束体験も含まれ、国際的な診断基準(ICD-11)でも確立された病名です。
実務や臨床の場では、「子どもの頃のトラウマで神経系や感情調節の発達に影響が出た状態(DTD的側面)」が基礎にあり、成長とともに生きづらさや自己否定感が固定化したものを「複雑性PTSD」と捉えるなど、一連のグラデーションとして理解されることが一般的です。
3.単回性PTSDとの違い
トラウマに由来する症候群としてよく知られている「PTSD(心因性外傷後ストレス障害)」と「複雑性PTSD」には、体験の質と症状の広がりに大きな違いがあります。
項目 | 単回性PTSD | 複雑性PTSD |
原因となる出来事 | 単発的・一回限りの脅威(地震・事故・犯罪被害・単発の暴行など) | 慢性的・反復的な脅威(長年の虐待・DV・継続的ないじめなど) |
主な症状 | 侵入症状(フラッシュバック)、回避、過覚醒など | 単回性PTSDの症状 + 感情調節や人間関係の困難 |
自己像 | 事故前の「本来の自分」の感覚が残っていることが多い | 「自分が悪い」「自分には価値がない」という強固な否定感 |
一般的に「PTSD」と呼ばれるものの多くは、命の危険を感じるような一回限りの衝撃的な体験によって生じます(単回性PTSD)。
一方、複雑性PTSDは、「人間関係や生活の中で、長期間にわたって繰り返された傷つき」が原因となります。
そのため、恐怖感だけでなく「自分自身をどう捉えるか(自己否定感)」や「他者とどう関わるか(人間関係の難しさ)」という、心理的な根幹部分にも深い影響が及ぶのが特徴です。
4. 複雑性PTSDの主な症状(6つの特徴)
複雑性PTSDでは、通常のPTSDに見られる3つの症状に加えて、さらに3つの特徴的な症状(自己組織化障害:DSO)があらわれます。
【通常のPTSDにも見られる症状】
フラッシュバック・侵入症状
当時の記憶や感覚(恐怖、匂い、音など)が、意図せず突然鮮明によみがえる。
回避行動
トラウマを思い出させる場所、人物、話題、感覚などを激しく避ける。
過覚醒(過度の警戒)
常に緊張が解けず、音に過剰に驚いたり、イライラしやすかったり、眠れなかったりする。
【複雑性PTSDでさらに加わる症状】
感情調節の困難
感情のコントロールが難しく、些細なことで強い激怒を感じたり、逆に感情が完全に麻痺して解離状態(現実感がなくなる)になったりする。
否定的な自己概念
「自分は欠陥だらけだ」「自分は無価値である」「自分が悪いからあんなことが起きた」という深い恥の感覚や自責感に苛まれる。
対人関係の維持の困難
人を信頼することが非常に難しく、他者と親密な関係を築くことを避けたり、逆に依存的・支配的な関係から抜け出せなくなったりする。
5. 回復に向けたアプローチ
複雑性PTSDの苦しさは、「本人の性格や意志の弱さ」ではなく、過酷な環境を生き抜くために心が身につけた生き残り戦略(サバイバル反応)の残像であり、神経などの身体の機能の問題という見方が主流になりつつあります。
そのため、特に身体からの特殊なアプローチ(療法)が効果的といわれます。
回復のプロセスでは、以下のようなアプローチが段階的に用いられます。
安心・安全の確保と身体の安定化
まずは今いる環境の安全を確保し、過緊張状態にある自律神経を整えるセルフケアや身体的アプローチ(神経系を落ち着かせる技法)を学びます。
感情調節と自己アプローチ
傷ついた内面や感情に気づき、否定的な自己概念をやわらげ、自分自身に寄り添う力を育てます。
トラウマ処理と統合(必要に応じて)
十分な安全と土台が整った段階で、適切なトラウマセラピー(EMDR、身体感覚に焦点を当てるソマティックな心理療法、パーツ心理療法など)を通じて過去の記憶を整理します。
愛恩研究所のCOCORO相談室で行っているセルフコンセプト・セラピー®(SCT)は、それらEMDR、ソマティック心理療法、パーツ心理療法などを含みます。
SCTでは、まずダメージを受けた自己概念をまず回復させることから始めます。
そして、感情を自己発見していき、そのストレスを主に身体感覚を使って解放していくので、優しく効果的に行うことができます。
まずは詳しく知りたい場合は、書籍「セルフコンセプト・セラピーでポジティブ繊細を楽しもう!」をお読みください。Amazonからご購入いただけます。
おわりに
複雑性PTSDの回復は、一本道ではなく緩やかな波を描きながら進むプロセスです。
「長年ずっと辛かった」という背景があるからこそ、時間をかけて少しずつ、安全な感覚と自分らしさを取り戻していくことが可能です。
「もしかして自分もそうかもしれない」と感じられた方は、トラウマケアに対応している専門機関やカウンセラーにご相談ください。